暇な治療院

　１０時を過ぎたのに誰も来ませんねえ。　暇だよーー。
まあ始めたばかりの治療院、大混雑だったら疑われるわ。
　昔はね、ホテルに出張してやったことも有るよ。
たまに芸能人も頼みに来るんだよなあ。
　友達ではプリプリのメンバーに頼まれたって人が居た。
ぼくはねえ、俳優の村上弘明さんに頼まれたことが有るよ。
ちょうどクリスマスの頃だったなあ。
　その頃になるとラジオ界は全国揃って［ラジオチャリティー　ミュージックソン］をやる。
それに呼ばれてたんだろうなあ。　翌日のラジオを聞いてたら「昨日ねえ、マッサージをしてもらったんだ。　それで話を聞いたんだけどさ、、、。」って話してた。
ワーーーーーーーオ。
その後、村上さんはどうしてるんだろうなあ？
　そんなことを思い出しながら窓から顔を出してみる。
辺りはたまに車が通るだけ。　静かすぎるよなあ。
　遠くのほうでは市電が走ってますねえ。　たまにしか乗らないけど。
あれだっていいのか悪いのか、、、。
　音が無いのも怖いからｓｄから引っ張りましょうか。
杉本まさとさんですねえ。　『吾亦紅』ですか。
　ホテルの出張で働いていた頃、カーラジオから流れてくるのを聞きました。
その後に結婚して離婚した自分を見てこの歌を思い出したもんです。
　叔母は故郷の町から出たことは無かった。
故郷に生まれて故郷に死んでいった人でした。
　あの頃、仲良しだった人も居ました。　でも会うことは有りません。
だってぼくは故郷を一度は捨てたんだから。
　学生時代、ぼくは鍼に熱中していた。
勉強を始める前はさんざんに嫌っていたはずなのに。
　「俺はマッサージ師にはならないぞ。　老人ホームなんかで働かないぞ。」
そう言っていたはずなのにマッサージ師になって老人保健施設で働いたの。
運命の皮肉なのかなあ？　それとも？
　そりゃね、友達の中には「老人ホームなんかで働いてるようじゃお前は下の下だ。」って言い捨ててくるやつも居たよ。
「按摩をやりたいんなら治療院を作れ。　そうじゃないなら泡でも食って遊んでろ。」なんて平気で言われたもんだ。
　でもさぼくは思う。
治療院だけが全てじゃないし老人ホームだけが全てじゃない。
　そりゃね、治療院だと余程の腕が無いとやってけないってのは事実だと思う。
でもそれは老人ホームだって同じこと。　それが分からないようじゃ話にならないよ。