暇な治療院

 コケコッコー! 朝ですよーーーー!
またまた朝が来ました。 地球が生まれて何度目の朝なんだろう?
 昔はねえ、雀の鳴き声に起こされたもんだ。 いやいや風情が無いなあ。
あの懐かしい黒電話も無くなっちゃったしねえ。 有るじゃないかって?
ああ、それは北のブー太郎さんですねえ。
 さあ今日も白衣を着て仕事を待ちましょう。 ってかアリ地獄じゃないんだぞ。
白衣はやっぱり気持ちが引き締まっていいねえ。 ジャージなんかよりずっといいわ。
 学生の頃も実習では上だけの白衣を着ます。 なんか選ばれた人って感じ。
あの頃でも白衣を着ると気分が変わったなあ。 土曜日は大変だったけど。
だってさあ、洗濯当番はいつもぼくなんだ。
誰かが代わってくれたことは無いんだよなあ。 陰湿な虐めだったのかもねえ。
じゃあ、ぼくがやらなかったらどうなってたんだろう?
 実習助手が資料の整理をしてたからついでにやってくれてたかも?
 でもそれだって毎週ってわけにはいかないよね。 どっかでばれたはず。
それもさあ35年前の話なんだよ。 同級生とも会わなくなったし話の種にもなりゃしない。
 さあさあ施術室の窓を開け放してっと、、、。 静かだなあ。
朝なのに車さえ走ってないなんて、、、。
 そういえば足を360度開けるって言ってた人が居たなあ。 いくら何でもそれは無いよ。
360度もどうやって開くのさ? 体が壊れちまう。
股関節はそんなに開かないぞ。 適当なことを言わないでくれ。
「すごい!」って言われたかったんだろう? そのほうがすごいよ。
 ぼくは施術者だからね。 すぐに分かったよ。
一般人はそんなことは考えない。 聞いた話に驚いてるだけ。
でも次の日には忘れてる。 嘘吐きには有り難いよねえ?
残念ながら施術者に嘘は通用しないのだ。 しっかりと勉強してきたんだから。
 解剖されたご遺体だって見せていただきますよ。 ほんとに緊張する一日だった。
ぼくが見せていただいたのはどちらも女性の方でしたね。
関節も神経も残さずに見せていただきました。 今でも感謝してます。
でもみんなで大騒ぎするようなことは有りません。 「新鮮な遺体が、、、」なんてはしゃぐのは罰当たりもいい所です。
あんなのが医者だったら品を下げるだけ。 居ないほうがいい。
 ぼくらだって医療界の隅っこで働いてるわけだからそう思う。 鮮魚市場じゃないんだからね。
ってなわけで今日も電話が掛かってくるのを待ちましょう。 静かだなあ。