極道家の花の姫は最強女総長様

???Side

「……何だ彼奴」

俺はその光景を見ながら目を見開き、ポツリと呟いた。

「どうしたの〜?”橙犂(とうり)”君」

「……あれ、見てみろ」

俺が端的に告げると其奴は訝しげに俺の指差した方向を見つめる。
そして、やがて混乱したような声を上げた。

「……嘘でしょ……?……いやいやいやいや、本気(マジ)で何あれ……?有り得ないでしょ……、幻覚……?」

「俺も見えてるから幻覚では無いだろ……」

馬鹿なのか此奴は……。
だがそう想うのも無理はないだろう。なにせ”あの”皇牙刹那が女子生徒と登校していたんから。

「どうしたんですか、二人揃って慌てて」

「…………橙犂も”志恩(しおん)”も五月蝿い……」

「つーか橙犂まで何慌ててんのさ」

俺達が困惑しているといつの間にか幹部メンバーがこぞって集まってきた。

「皆も見てみたら分かるよ……それにしてもヤバすぎ……てか橙犂君落ち着きすぎじゃない……?」

「志恩が五月蝿いだけでしょ……って、は?」

普段無口で基本何事にも無頓着な”碧葉(あおば)”ですら戸惑っている。相当驚いたんだろう。
続け様に”芽郁(めい)”と”彪雅(ひょうが)”もそちらと見ると、各々困惑した表情を浮かべた。

「……アレは本当に皇牙刹那ですか…………?」

「ってか皇牙刹那って笑うのか……?その上女子と喋ってるし……意味わかんねぇ……」

……まぁ当然の反応だろう。碧葉以上に無口で無頓着、その上女嫌いで無表情がもはやデフォルトで”あの”Lycorisの副総長。
俺達”蛍嶺(けいれい)”ですら日本一で止まってる。その遥か上、世界一の暴走族”Lycoris”。
総長は正体不明……所属メンバーですら公開されてない。分かってるのは幹部と副総長だけ。
……つまり、現在身元の判明している中で最も強い人間。
そんな皇牙刹那が、女と話して笑ってる……。絶対に有り得ないことだと誰もが思っているだろう。

……それに俺達は皇牙刹那と同じクラスだ。だからこそ身に沁みて理解していることだろう。
皇牙刹那が”Lycoris”の幹部以外と話して事の異常性を。
ましてや”一条 志月(いちじょう しづき)”以外の女と話しているなんて。
……つい去年の入学式の日の話だ。清潭な顔立ちの皇牙刹那に大量の女が話し掛けに行っていた。だが……
皇牙刹那は話しかけてきた女共を一人残らず、文字道理に”消した”。唯一例外は”Lycoris”の幹部である一条志月だけ。
……まぁ、一条志月はなぜか皇牙刹那を嫌っているからな……皇牙刹那が女と話すことなんてほぼ無いに等しかった。

これは荒れるな、と俺は思いながら皇牙刹那と歩いていた女について考えるのだった。