おじいさんは表情を変えることないまま、私たちを見つめ続けている。
ど、どうしよう。誤解を解かないと⁉
私がおどおどしていると、丹波くんがすっと進み出た。
「待ってください。僕たちが落としたのではありませんよ。僕たちには不可能です」
丹波くんの目は静かにおじいさんをとらえた。
おじいさんはいぶかしげに眉を寄せる。
「どういうことだ?」
丹波くんはすっと塀の上を指さした。
「その鉢は塀の上に置いてありました。僕たちの背では届くでしょうか?」
おじいさんはうぐっと言葉に詰まる。
丹波くんは間髪入れずに説明を続けた。
「真相は猫が鉢を落としてしまっただけですよ。もしかしてあなたの飼い猫ではないですか? その証拠に塀には猫の毛なんかがついているはずですよ」
おじいさんがハッとしたような顔をする。
「すまん。わしの勘違いだったな……」
「いやぁ~、いっぱいもらっちゃったなあ」
丹波くんの腕にはおっきなビニール袋が提げられている。
私にもだ。
さっきのおじいさんから、疑ったお詫びにって余った夏ミカンをもらっちゃったんだ。
おじいさん、昨日庭の掃除をしたときに塀の上に植木鉢をどかしたまま忘れてたんだって。
おかげで重くなっちゃったけど、誤解が解けたならよかった。
小学校の校舎に入ってから、ふと気づく。
「というか、なんでついてくるんですか? 自分のクラスに行かないんですか?」
丹波くんは私の隣で、さも当たり前かのように一緒に歩いてる。
だけど、丹波くんにも自分のクラスがあって教室の方向は私と違うよね?
丹波くんは私の質問には答えずに、さっと振り向いて微笑んだ。
「さっき言おうとしてたんだけどさ、君って今宮さんだよね。同じクラスの」
同じ、クラス?
私はぽかんと口を開ける。
丹波くんはその様子を見て、あははっと笑った。
「六年一組。もしかしてまだクラスメイト覚えてない?」
うえええええ!


