その顔は蓮くんそのものだった。
ランドセルを背負ったままの彼は私に目線を向ける。
「気づかれないようにつけてたんだけどな。バレちゃった」
蓮くんはふっと息を漏らしてこっちにやってきた。
その冷え切った鋭い目に、私は思わずえっと声を出す。
つ、つけてたって、私を?
それに蓮くんはクラブがあったんじゃないの?
「蓮くん、バレークラブは……? 練習ありますよね?」
「さぼった」
あっけらかんという彼は私の横を素通りしてお地蔵さんの前でひざを折ってしゃがむ。
なんか教室の時とは雰囲気が違うような……。
蓮くんはなおも真剣な顔でお地蔵さんに聞いた。
「さっきのはどういうこと? 悩みならなくせるって。ほんとなの?」
「ああ、本当じゃ」
お地蔵さんは頭を縦に振る。(もうお地蔵さんが動いても驚きもしなくなっちゃったよ!)
お地蔵さんは立ち尽くしている私をちらっと見てから再び蓮くんに目を向けた。
「わしはこの街を百年以上前から見守っておる。わしの使命はここの民が苦しむ悩みをなくしてやること。これは天から遣わされた使
命じゃ。お主らもそれぞれ悩みを持っておるな、わしにはすべてわかるぞ」
蓮くんがすぅっと息をのんだ。
『それぞれ』って……蓮くんにも悩みがあるの? 女子にも男子にも人気があって、心也くんみたいにたくさん友達がいるのに。
そんな彼にも、私と同じように?
「それを……なくしてくれるんだよね」
蓮くんの出す声がかすれている。
お地蔵さんは低い声で答えた。


