氷壁エリートの夜の顔

 私はひと呼吸おいて、彼女に視線を戻す。
 そして感情を抑えた、オフィス用の笑みを浮かべた。

「そうでしたか。おふたり、とてもお似合いですもの。ぜひ、またご一緒にいらしてください」

 一瞬、彼女の眉がかすかに動いた。でも、すぐに魅力的な笑顔が戻る。

「ありがとう。でも……あなたにそう言われると、なんだか含みがあるように聞こえちゃう。気のせいかしら?」

 グラスを軽く傾けながら、彼女はまっすぐに私を見つめてくる。

「気のせいですよ。私、どなたに対しても同じように申し上げていますから」

「へえ……じゃあさっき言った『お似合い』って言葉も、『本日のおすすめ』みたいな決まり文句なのね」

 私たちのちょうど真ん中で、火花が弾けた気がした。

 わかってる。結城さんと付き合っているのが彼女なら、勝ち負けで言えば、私はもう負けている。
 それは変えようのない事実。でも──せめて、自分の矜持くらいは守っていたいじゃない?

 絢音さんは、私の顔をじっと見つめたまま、しばらく何も言わなかった。
 私も視線を外さずに彼女を見返す。

 やがて、彼女がゆっくりと口を開いた。

「あなた、颯真のことが好きなんでしょ?」

 彼女の目は──答えなど最初から知っているとでも言うように、まっすぐ私を射抜いてくる。

 だけど、その瞳に激しい嫉妬の色はない。
 あの夜の──結城さんのマンションでのことは、彼女はきっと、知らないのだろう。