君のとなりで

夕暮れ時、空には柔らかな茜色が広がり、海風がほんのりと髪を揺らした。真衣は玲奈から借りたワンピースを丁寧にたたんで紙袋に入れ、大事そうに両腕で抱えながら帰路を歩いていた。

心の奥がそわそわと落ち着かず、鼓動が少しだけ早い。
――これ、着ていくのか、私が。本当に。

そんなふうに考えながらも、ほんの少し笑みがこぼれてしまう。

家に着くと、ドアを開けた瞬間、キッチンから甘い焼き菓子の香りとともに、茉里おばさんの明るい声が聞こえた。

「おかえり、真衣!」

真衣は玄関で靴を脱ぎながら顔を上げた。

「ただいま、茉里おばさん。」

紙袋を持ったままリビングに入っていくと、茉里おばさんは手にしていたマグカップを置いて、ふと真衣の持っている袋に目を留めた。

「あら、それ……もしかしてお洋服?」

真衣は少し驚いたように立ち止まる。

「え?う、うん。友達が貸してくれたの。……週末、ちょっと出かけるって話してたら。」

茉里おばさんの目がわずかに輝いた。

「まぁ、見せてちょうだいよ。どんなのか気になるわ!」

「えっ、いま?」

「もちろん。せっかくだもの。」

少し戸惑いながらも、真衣は紙袋からワンピースをそっと取り出した。淡いブルー色の、ふわりとしたシルエットのシンプルなワンピース。光に当たるとほんのりと透けるような質感が、美しくて控えめな存在感を放っている。

「これ……。」

真衣はそれを体に当ててみせる。茉里おばさんは目を見開き、すぐにぱっと笑顔を咲かせた。

「まあ、なんて素敵なの!真衣、それ、あなたに絶対似合うわよ。色も形も、あなたの雰囲気にぴったり。」

真衣は頬を赤らめて、照れたように笑った。

「そうかな……なんか、ちょっと恥ずかしいけど。」

「恥ずかしがることなんてないわ。むしろ、礼央もきっと驚くと思う。」

「えっ……礼央?」

茉里おばさんは悪戯っぽくウインクして、キッチンに戻っていった。

「ふふ、ただのお出かけって言っても、女の子にはそういう特別な準備があるんでしょう?よくわかるわよ。」

真衣はその背中を見つめながら、なぜか胸がほんのり熱くなるのを感じた。
ワンピースを持つ手に、自然と力が入る。

礼央、驚くかな……
ふと浮かんだその想像に、頬がまた赤くなった。

そして真衣は、自室へと戻り、明日のためにワンピースをハンガーにかけた。カーテンの隙間から見える夕焼けの色は、まるで彼女の胸の内を映しているかのように、やさしく、淡く、どこか心をざわつかせる色をしていた。