君のとなりで

「えー、どっちって言われても……困るっていうか……」

乃亜は真衣の顔を覗き込みながら、いたずらっぽく笑った。

「ってことは、どっちかはありってことだ?」

「ち、違う! そういう意味じゃなくて……!」

「へぇ、図星か〜」

真衣は顔を赤くしながら、サンドイッチの具をつまんで視線をそらす。

「もう、乃亜ってほんといじわる……」

「俺は素直なだけ。……でもさ、どっち選んでも、礼央も俺もきっとめちゃくちゃ悩むと思うよ?」

「えっ……それって、脅しかな?」

「んー……予告?」

冗談めかして言いながらも、内心では――
ほんとは、そんな未来、来てほしくない
そんな思いが喉の奥でつっかえた。

真衣が誰を選ぶかなんて、今すぐ答えを出してほしいわけじゃない。
けど、選ばれない側になる未来を、ふと想像してしまった自分がいた。

乃亜は空を見上げながら、ふっと息をこぼすように言った。

「でもまあ……真衣が笑顔でいてくれればそれでいいかなって思ってる」

口ではそう言いながら、胸の奥は少しだけチクリと痛んだ。
ほんとは、自分の隣で笑っててほしいくせに

真衣はしばらく黙って乃亜を見つめていた。その視線に気づきながらも、乃亜は照れ隠しのように空を見続けた。

そのとき、真衣のスマホがふるえた。

From: 茉里おばさん
「今夜はお腹ペコペコで帰ってきてね〜!」

「あ、茉里おばさんからだ」

「母さんからのメッセージ=今夜はごちそう確定だな」

「へえ、そうなの?」

「うん、母さんの本気メニューだよ。肉の量がハンパないんだ。……たぶんうちって、食べ物で気持ちを伝えるタイプの家族だよ」

「なんだかそれ、すごく温かく感じる。安心するね」

乃亜はその笑顔を見て、つい息を呑んだ。
やっぱり、真衣の笑顔……ずるいくらい、、好きだ

何も言わずにしばらく見つめたあと、ふと風が吹いて真衣の髪が揺れた。
乃亜はためらわず、指先でそっと彼女の髪を払ってやった。

「……ほんとに、笑ってる真衣って、いい顔してる」

「なにそれ、突然……」

「突然じゃないよ。……ずっと思ってた」

真衣はうまく返せず、視線をそらしてベンチの下の落ち葉を見つめた。

乃亜はその横顔をそっと見つめながら、心の奥に浮かぶ思いを飲み込んだ。
こんなふうに、近くにいられるだけで本当は十分なのかもしれない。……でも、それじゃ足りない自分もいる

ほんの数秒の沈黙。
その空気を壊さないように、乃亜はわざと軽く笑って口を開いた。

「じゃあさ、このサンドイッチ全部食べきってくれたら、今日のところは満足ってことにしよっか」

「うん、がんばってみる!」

乃亜の心の奥には、明るく笑う真衣を見守りながらも、
いつか本気で「好き」って言ったら、真衣はどうするんだろう
そんな想いが、静かにくすぶっていた。