君のとなりで

中庭。

図書室を出た真衣は、心の奥でまだほんのりと残る余韻を抱えながら、校舎の裏手にある中庭へと歩いていった。

広々とした芝生と大きな木々に囲まれた開放的なスペース。
その片隅に、陽がよく当たるL字型のベンチがぽつんと置かれていた。

木漏れ日が柔らかく揺れる中、そこに座っている乃亜の姿が見える。
彼はフードをかぶったまま、スマホを見つめていたが、真衣の姿にすぐ気づく。

「おっ、来た来た。遅い〜! 凍えるかと思った」

「ごめん、ごめん…、 礼央とちょっとだけ話してたの」

「あ〜なるほど、兄さんか。まあ、真衣が来てくれたから許す!」

乃亜はそう言いながら、バッグからタッパーを取り出し、誇らしげに差し出した。

「はい、じゃーん!俺のスペシャルランチ。評価は厳しめでどうぞ」

真衣がふたを開けると、そこには鮮やかなフルーツとサンドイッチ。

カラフルなイチゴ、オレンジ、ブルーベリー。
小さくカットされたクラブサンドには、アボカドとチキンがバランス良く挟まれている。

「……え、なにこれ、めっちゃオシャレなんだけど」

「だろ?」

「いや、これふつうにインスタ映えだよ?」

「じゃ、撮っとく? #乃亜飯ってタグで?」

「うける、それ絶対バズんないやつ」

ふたりで笑いながら、真衣はキウイをひとつ口に入れる。

「……うん、普通に美味しい。ってか、これほんとに作ったの?」

「まあな。最近ちょっと料理ハマってて。モテたいっていうより、単に俺が食べたいだけだけど」

「正直でよろしい」

そのままフルーツをつまみながら、ふたりはリラックスした空気で並んで座っていた。

「このベンチ、日が当たって気持ちいいし、校舎の陰になってるから人も少ない。いい感じでしょ?」

風は少し冷たかったけれど、背中に当たる太陽の温もりが心地よい。

「ほんと……静かで、落ち着くね」

「俺、この場所気に入ってるんだよ。真衣もきっと気にいるだろうと思ったからよかった」

その言葉に私は笑顔になった。

そして、乃亜がふと、悪戯っぽい目でこちらを見てくる。

「そういや、さっき礼央と話してたんだよね?」

「うん、ちょっとだけ」

「ふ〜ん……」

一瞬だけ真顔になったかと思うと、すぐににやっと笑って、

「ねぇ、真衣‥‥俺と兄さん、どっちがタイプ?」

真衣はサンドイッチをかじったまま、吹き出しそうになった。

「ちょ、急すぎ!なにその質問!」

「ん〜?気になるだけ〜」