君の隣が、いちばん遠い



その後、わたしはシフト表を見ながら、意を決して店長に声をかけた。


「あの……来月から、少しだけシフトを減らしてもらえますか?」

「大丈夫? 体調?」

「いえ、そうじゃなくて……放課後に、学校の友達と過ごす時間を、もう少し大切にしたくて」


店長は驚いたように少し目を見開いたあと、にこっと笑った。


「うん、それはいいことだ。OK、調整しておくよ」

「ありがとうございます」


そう言って頭を下げたわたしの胸の中には、ほんのすこしのあたたかさが残った。





帰宅後、自室のベッドに寝転んで、スマホを開いた。

通知欄に、見慣れた名前がある。


《明日、がんばろうな。……あんま話せてなかったけど》


一ノ瀬くんからのLINE。

画面を見つめたまま、わたしはしばらく動けなかった。


どう返せばいいのかわからなかった。

けれど──心のどこかで、ずっと待っていた言葉でもあった。


わたしは、そっと指を動かす。


《うん、ありがとう》


それだけの短い言葉を送信して、スマホを胸元に抱きしめた。

たったそれだけなのに、心の奥がふわりと揺れた。


文化祭前夜。

見えなくなりそうだった気持ちが、ほんのすこしだけ、灯りを取り戻したような気がした。