君の隣が、いちばん遠い



「ひよりちゃん、ちょっと疲れてない?」


ふいに声をかけられて、顔を上げると、先輩の沙月さんが笑っていた。


「……大丈夫です」

「嘘っぽい。……文化祭、近いんでしょ?」

「はい。明日なんです」


沙月さんはレジ横でペンの整理をしながら、「楽しみ?」と優しく聞いてきた。


「うーん……楽しみな部分もあるんですけど……少し、不安もあります」

「ふむ。不安って、人間関係のこと?」


わたしは一瞬迷ってから、小さくうなずいた。


「……はい。少し前まで仲良くしてた人と、最近あまり話せなくなって。で、その人が他の子と楽しそうにしてるのを見ると……少し、苦しくなって」


沙月さんは静かに相槌を打ちながら、わたしの話を最後まで聞いてくれた。


「そういうの、あるよね。でもさ、どっちかが少し距離を置いたからって、全部が終わりになるわけじゃないんだよ」

「……そう、ですか?」

「うん。本当に繋がってる人なら、また話せる。今はタイミングじゃないだけかもしれないよ」


その言葉に、少しだけ心を軽くされた気がした。


「……先輩って、やっぱりすごいです」

「それ、褒めてる? だったら、今度お茶おごってね」


ふっと、ふたりで笑い合った。