画面を閉じて、スマホを胸の上にそっと置いた。
少しだけ、目を閉じる。
今日一日を反芻した。
あの頃のように話せていたなら。
今も、もっと近くにいられたなら。
そう思う自分がいることに、気づいていた。
次の日、文化祭の準備はどんどん進んでいた。
わたしと吉岡くんは教室の隅で、カウンターに使う仕切りを段ボールで組み立てていた。
「ここ、もう少し補強いるかも」
「……うん、テープ足そうか」
そのやりとりが、心地よかった。
言葉少なくても、作業は進む。
そのときだった。
一ノ瀬くんが、窓の外をぼんやりと眺めながら、ぽつりと言った。
「……最近、佐倉さんと話してないな」
誰に言うでもなく、ただ自分に言い聞かせるように。
その声は、教室のざわめきにまぎれて、誰にも聞こえなかった──はずだった。
けれど、わたしの胸には、確かに届いていた。



