背が高く、黒髪がきれいに整っていて、制服が自然に似合っている。

数冊の本を抱え、図書館に溶け込むような佇まい。

それでいて、どこか柔らかく、あたたかい空気をまとっている。


「……ここ、よく来るの?」

自然体な笑みで尋ねるその声に、戸惑いながら答えた。


「……ときどき。静かだから」

「だよな。俺も、たまに来る」


彼が手にしていた本の背表紙には、社会学や哲学のような難しそうな文字が並んでいた。

——中学のときも、こんな感じだったな。


思い返せば、一ノ瀬くんはいつも誰かの隣にいて、だけどどこか自分だけのリズムをもっていた。

明るくて、周りに人が集まるタイプだけど、不思議と押しつけがましさはなくて。

中学でも、話したことはなかったけれど、視界の端で彼を見つけるたび、どこか安心するような気持ちになっていた。


そんな彼が、今、自分に声をかけている。

それだけで、胸の奥が少しだけ熱くなった。