君の隣が、いちばん遠い



「……なんか、にぎやかだね」

「ごめんね、急におじゃまして」

「ううん、別に。佐倉さん、いつも静かだから、こういうのも悪くない」

「ちょ、なにその言い方」


紗英ちゃんが肩をすくめ、笑いながら言い返す。

吉岡くんは軽く首をかしげただけで、また本を開いた。


そのやり取りに、思わず笑ってしまった。

自分の席の周りが、少しずつにぎやかになっていくのを、悪くないと思った。





休み時間のたびに、紗英ちゃんはよくわたしのところにやってきた。

日焼け止めの話、流行ってる漫画、次の体育の種目などたくさんの話をした。


「今度さ、また4人でどこか行こうよ。今度は映画とか? あ、カフェ巡りとかもいいな」
「……うん、楽しそう」


そんな風に笑ってくれる紗英ちゃんに、わたしは少しずつ言葉を返すようになっていた。





放課後。

教室の窓から差し込む夕日が、机を赤く染めていた。


わたしが筆箱をしまっていると、隣の吉岡が、ふと声をかけてきた。


「……この席、けっこう落ち着くね」

「……うん、そうだね」


静かに笑って頷いた。

風が、窓のカーテンを揺らしている。


となりの景色は、少しだけ変わった。

けれど、それはきっと──悪いことではなかった。