君の隣が、いちばん遠い



夏の夕暮れ。わたしは、鏡の前でそわそわと髪を整えていた。


浴衣姿の自分を、じっと見つめる。

淡い藍色に、小さな白い花がちりばめられた柄。

着付けは、美帆ちゃんが手伝ってくれた。


「大丈夫、ひよりは細いから似合うって」

「そういう問題……?」

「そういう問題よ。ほら、帯もうちょっと締めるね」


普段はあまり服装に口出ししない美帆ちゃんが、楽しそうにあれこれ言いながら手伝ってくれたのが、妙に嬉しかった。


「はい、完成。かわいすぎ注意」

「……大げさだよ」


でも、口元は少しだけ緩んでいた。


駅前の神社通りには、すでにたくさんの人が集まり始めていた。

浴衣姿のカップル、屋台から流れるソースの香り、どこか浮き立ったような笑い声。


そして、待ち合わせ場所の鳥居の下。


「おおっ、来た来た!」


一番に気づいたのは柊くんだった。