君の隣が、いちばん遠い



カフェを出たあとの帰り道。

駅までの道を、ふたりきりで歩いていた。


街灯がぽつぽつと灯り始めた夕方の通り。

ほんのり風が吹いて、わたしの髪が揺れた。


「……あのね」


わたしが口を開く。


「この前、言ってくれたでしょ? 行きたかったら誘ってみたらって」

「うん。言った」

「だから、誘ってみた」


少しの間。

一ノ瀬くんはふっと息をついてから、にやりと笑った。


「てっきり、岸本だけを誘うのかと思ってた」

「……違うよ」


わたしは、俯きながら、それでもしっかりと言葉を紡いだ。


「わたしは、一ノ瀬くんも含めて、みんなで遊びたかったの」


その声は震えていなかった。

ゆっくりと、けれど真っ直ぐだった。


彼は足を止めて、隣に並んだわたしの顔を見た。


「……うれしいよ、そう言ってくれて」


その一言だけが、胸の奥にぽっと灯りをともした。

ほんの少しだけ自分を見せられた気がした。


たとえ全部じゃなくても。

たとえまだ“本当の自分”が言葉にできなくても。


わたしは、少しずつ、自分の気持ちを誰かに伝えることを、覚えはじめていた。