「……まあ、否定はしないかな」

「佐倉さんも遥には心を開いてる感じがするし、いーなー」


そんな空気に、紗英ちゃんがふいに、ちょっと拗ねたように言葉を挟んだ。


「なにそれ。一ノ瀬ばっかずるくない? 私だって、もっとひよりの素とか見たいんだけど?」


言葉のトーンは冗談めいていたが、その奥にある“ちょっとした嫉妬”は、誰にでもわかるくらいだった。

一ノ瀬くんが「いいだろ」と自慢げに答える。


「佐倉さんと俺はよく放課後一緒に過ごす仲なんだよ」

「え〜なにそれ!一ノ瀬ずるーい!私だって、ひよりと放課後遊びたかった!忙しいと思って遠慮してたのに!」


そう言って、紗英ちゃんが冗談っぽく一ノ瀬くんの肩を軽くどつく。

柊くんが「出た、岸本のやきもちモード」とからかい、場はまた明るい笑いに包まれた。

そんな中、わたしは紗英ちゃんに「今度放課後遊ぼうね」と誘ってみた。


そして、カップを取ろうとしたとき、ちょうど一ノ瀬くんも同じタイミングで動いて──

ふたりの指先が、かすかに触れた。

その瞬間、ふたりともハッと手を引く。