君の隣が、いちばん遠い



その問いはあくまで穏やかで、でもどこか遠回しに“あなたは誰?”と尋ねているような空気があった。


「……佐倉ひよりさん。クラスメイトで、いつもお世話になってます」


一ノ瀬くんが代わりに紹介する。


「そう。ひよりさん。初めまして、遥の母です」


にこやかに言って、小さく会釈してくれた。

わたしも、慌てて頭を下げる。


「は、はじめまして……佐倉です」

「高校生活、どうかしら? うちの子、あまり家で話さないから、どんなふうに過ごしているのか心配で」

「……一ノ瀬くんは、クラスでも……とても、頼りにされてます」


そう答えるのがやっとだった。


「ありがとう。遥、あなたもたまにはそうやって、ちゃんと報告してくれたらいいのに」


一ノ瀬くんのお母さんの笑顔は崩れなかった。

けれどその下にある“理想の息子であってほしい”という空気は、わたしにもわかってしまった。