送信ボタンを押すまでに、数分かかった。
けれど、すぐに返事は来た。
《行こう。いいとこ、知ってるんだ》
そのやりとりだけで、夏の空が少しやさしくなった気がした。
待ち合わせたのは、市街地から少し離れた、静かな自然公園の前だった。
大きな木々に囲まれたその場所は、蝉の声が木漏れ日の中で揺れていた。
「来てくれてありがと」
「こちらこそ……誘ってくれて、ありがとう」
わたしはそう言って、少しだけ笑った。
木陰を歩く道。
涼しげな風が肌をなで、足元には日差しの模様が揺れていた。
「ここ、小学生の頃によく来てたんだ」
「……そうなんだ」
「なんか、ひとりになりたくなるときって、あるじゃん」
ひよりはうなずいた。
「……わかる。静かなところ、好き」
「でしょ? 今日は、君と一緒に来たかった」
一ノ瀬くんは歩幅を合わせながら言った。
ふたりの間に流れる空気は、会話の間すら心地よく感じる。



