朝の光が、カーテンの隙間から静かに差し込んでくる。
制服の襟を整え、鏡の前で軽く自分の髪を結び直した。
鏡の中の自分は、感情のない顔をしている。
眠っていた感情を置き去りにしたまま、ただ「大人しく」「静かに」整えられた自分。
階下からは、朝食の食器の音と、美帆の明るい声が聞こえてきた。
「それ、昨日のプリント捨てたでしょー!もー、お父さんったらほんとに〜!」
にぎやかで、温かくて、でもどこか遠い音。
わたしにとっては“叔父と叔母の家”だけれど、美帆ちゃんにとっては、そこは“実の家庭”だ。
その違いを、言葉にしないまま、いつも心のどこかで感じていた。
だから、階段を降りると、そっと玄関へ向かう。
靴を並べ、小さくつぶやく。
「……行ってきます」
その声は、ドアが閉まる音にすぐ飲み込まれてしまった。



