最初はショッピングモールを回ることになった。
雑貨店やアパレルショップを見て回りながら、柊くんが次々と変なポーチや謎の帽子をかぶっては、誰かの笑いを誘う。
「見て! このパンダのポーチ、俺に似合うと思わない?」
「いや、絶対思わない」
「心を無にして真顔で否定するのやめて?」
そのやりとりに、思わず笑ってしまう。
「……ほんとに、面白いね」
「でしょ? 初対面で笑ってくれたら、今日の俺の仕事は半分終わりだな」
柊くんはそう言ってウィンクをして見せた。
その後、水族館に移動した。
涼しい館内。水槽の中を泳ぐ魚たちの静かな動きに、わたしは自然と心を落ち着けていく。
イルカの水しぶきに柊が思い切り濡れて、全員が笑い転げたとき。
一ノ瀬くんが、隣にいたわたしの肩にタオルを差し出した。
「大丈夫? ちょっとだけ水かかったね」
「……うん、ありがとう」
その声は、周囲の賑やかさとは対照的に、ふたりだけの温度を持っていた。



