蝉の声が、午後の空に溶けていた。
放課後の教室。
西日が傾き、窓辺のカーテンが風に揺れている。
机の間を抜ける風は少しぬるくて、けれど心地よかった。
わたしは、自分の席にかばんを置いたまま、窓の外をぼんやりと見つめていた。
グラウンドではまだ数人が部活をしていて、掛け声とボールの音が遠くから聞こえてくる。
──夏が近い。
そのことを、肌で感じていた。
「ねえ、佐倉さん」
教室の出口に向かおうとしていたわたしに、岸本さんが声をかけた。
「さっきの数学、ちょっとむずかしくなかった? 私、途中から意味不明でさ」
「……うん。ちょっと考えさせられたかも」
少し驚きながらも、微笑んで答える。
「よかった、私だけじゃなかったー」
岸本さんは明るく笑ってから、ふと目線をそらして、少しだけ声を落とした。
「……ねえ、放課後、時間ある?」



