「……うん。まっすぐで、誰にでも優しくて。目立ってたと思う」


紗英はお弁当をつつきながら、ちらりとわたしの顔を覗き込む。


「じゃあさ、気になったり……とか?」


その質問は、からかいでも好奇心でもない。

どこか、あたたかく見守るような目線だった。


だから、ふいに、正直な気持ちをこぼしてしまった。


「……好きだったよ。たぶん。中学の頃」


岸本さんは、驚いたように目を瞬かせたあと、口元を緩めた。


「そっか。なんか、いいね。今の佐倉さんが言うと、すごく本当っぽい」

「でも……付き合いたいとか、そういうのじゃなかった。ただ、遠くから見てただけ」


わたしはそう言って、静かに笑った。

自分でも驚くほど、落ち着いた声だった。


「分かるよ、それ」


紗英は優しくそう言って、お弁当の残りを口に運んだ。


それだけの、短い会話だった。


けれど——


そのとき。

教室の後ろで、ノートを取りに戻ってきた誰かがいた。


一ノ瀬くんだ。


偶然だったのか、それとも———

ほんの一瞬、彼の足が止まったことに、わたしは気づいてしまった。