玄関のドアを開けた瞬間。
やわらかな光と見慣れない匂いが迎えてくれた。
「……これが、わたしの部屋、か」
六畳一間のワンルーム。
小さなキッチンと、奥には白いカーテンで仕切られた窓。
引っ越し業者が運んでくれたダンボールがまだ部屋の隅に積まれている。
慣れない鍵の開け方も、電子レンジの設置位置も、ゴミ出しのルールも、何もかもが「はじめて」だ。
その「はじめて」が、少しだけこそばゆくて、でもどこか誇らしい。
ベッドに腰を下ろすと、沈むような感覚と同時に、小さな現実が胸に広がる。
「いよいよ、始まっちゃったんだな……」
高校を卒業して、進学先の大学へ。
夢だった“国語の先生になる”という目標に向かって、ほんの一歩を踏み出したばかり。



