冬の夕暮れは、あっという間に空を暗くする。
塾の教室を出た瞬間、ひんやりとした空気が頬を撫でた。
年末の最終授業日、今日で塾も終わりだった。
わたしはカイロをポケットの中でぎゅっと握りしめながら、息を白く吐く。
「ひより」
ビルの陰から現れた人影が声をかけてきた。
「遥くん……!」
驚きと同時に、心がふわっとほどけた気がした。
さっきまで数字や英単語でいっぱいだった頭が、彼の顔を見た瞬間に空っぽになる。
「寒いと思って。迎えに来た」
「……ありがとう」
その声だけで、今日一日の疲れがすっと消えていくようだった。
けれど、わたしたちが並んで歩き出そうとしたそのとき、後ろから声がした。
「ちょっと待って。……佐倉さん」
振り返ると、塾の入口近くに白石くんが立っていた。
グレーのコートに手を突っ込み、肩で息をしている。



