推薦入試当日。
朝の空は、晴れているのにどこかくすんで見えた。
駅までの道を歩く間、何度も深呼吸を繰り返す。
いつもの塾のルートも、今朝はまったく違って見えた。
空気が澄んでいて、静かで、だけど胸の奥はぎゅうっと締めつけられるように痛む。
「大丈夫。わたしならできる」
口に出すと、ほんの少しだけ気持ちが軽くなる気がして、また小さくつぶやいた。
会場には、知らない制服、知らない顔。
きっと同じように、みんな緊張していて、でもどこか落ち着いているように見えた。
わたしだけが、心臓の音を外に漏らしてしまいそうだった。
試験は、一般常識や志望学部に関する筆記。
問題用紙を開いた瞬間、一度だけ目の前が真っ白になった。
でもすぐに深呼吸をして、一問ずつゆっくり読みながら、できるところから手を動かす。
わたしの手は、わずかに震えていた。



