君の隣が、いちばん遠い



「はい、それでは、佐倉さん。どうぞおかけください」

「……よろしくお願いします」


職員室の隅にある小さな面談スペース。

パーテーションで囲まれたその空間に、わたしと久遠先生のふたりきり。


久遠先生は、真剣な表情で椅子に座ると、面接官役の口調に切り替えた。


「志望理由をお聞かせください」

「……はい。わたしは、子どもたちの心に寄り添えるような教師になりたいと思い――」


頭に浮かべた言葉を、できるだけ丁寧に紡ぐ。

語尾が不安定にならないように、手元に置いた履歴書のコピーを見ないように、相手の目を見ることを心がける。


でも、どこか自分の声が遠くに感じてしまう。


「……ありがとうございました。では、次の質問に移ります」

「はい……」


何度も繰り返した練習。

それでも、完璧には程遠い。


模範解答のような言葉ばかりが頭に浮かんで、自分の言葉で語れている気がしなかった。


「……うん。よくがんばったな」


全ての質問が終わったあと、久遠先生はふっと口調をやわらげて、にこっと笑った。