わたしは、胸の奥がじんわりと温かくなった。
「あんなに、最初は警戒されてたのにね」
「……まあな。うちの母さん、不器用だから。でも、時間かかったけど、今はちゃんと伝わってると思うよ」
「よかった……」
その言葉だけで、なんだか安心した。
「わたし……あのリビング、すごく好きだった」
「……うん。俺も」
静かな夜道に、ふたりの声だけが小さく響く。
あの夏、汗をぬぐいながら、一緒に問題を解いて。
何度も何度も落ち込んで、励まし合って。
父親の厳しい視線も、母親の冷たい態度も、全部乗り越えてきた。
遥くんの家族の中に、ほんの少しでもわたしの居場所があるなら――。
それは、わたしにとって、とても大きなことだった。



