君の隣が、いちばん遠い



その声に、胸がきゅっとなった。

ずっと、あのリビングで勉強していた日々。


最初はただ居心地が悪かっただけの空間。

いつのまにか、わたしにとっての“大事な場所”になっていた。


「でもね、ひよりさん。いつでも、遊びにいらっしゃい」


その言葉は、穏やかで、温かくて。


「……はい。ありがとうございます」


わたしは深く頭を下げて、思いをこめて返した。





そのまま、お母さんとは途中の分かれ道で別れ、わたしたちはまた並んで歩いた。

無言がしばらく続いたあと、遥くんがふと口を開いた。


「母さん、ひよりのこと、たぶん気に入ってると思う」

「……え?」

「今日の顔見たら、なんかわかった。嬉しそうだった。たぶん、久しぶりにひよりに会えて、ホッとしたんじゃないかな」


遥くんは少し照れたように笑って、それから言葉を続ける。


「この前も、ふとしたときに“ひよりさん、元気かしら”って、ぽつりと言っててさ」