「――あら」
前方から歩いてきた女性と目が合った瞬間、わたしは思わず立ち止まってしまった。
「あ……こんばんは」
「あら、遥と、ひよりさん?」
遥くんのお母さんだった。
髪をすっきりと結い、
淡いベージュのロングカーディガンにパンプスというきちんとした装い。
仕事帰りだろうか。手には買い物袋が提げられている。
遥くんも少し驚いたように目を見開いて、「母さん」と声をかけた。
「ふたりで一緒だったのね。仲が良くて、いいわね」
彼女はにこりと笑って、そう言った。
けれど、わたしは気まずさで視線を逸らしそうになった。
「最近……あまり、おうちに行けてなくて……」
わたしが小さな声でそう言うと、お母さんは、やわらかく微笑んで、
「そうね。なんだか、ちょっと静かだったもの」



