塾を出た瞬間、夜風が肌にひやりと触れた。
もうすっかり秋の空気。
通い慣れた帰り道も、どこか深まった夜の色に染まっているように見える。
「今日も、おつかれさま」
隣で歩く遥くんが、そう声をかけてくれた。
「うん。遥くんも」
わたしたちは、同じ方向へと並んで歩く。
だけど最近は、こうして一緒に帰る時間がとても貴重になっていた。
塾の個別の時間がずれたり、面接練習の予定が入ったりで、同じ時間に終われないことも多くなったからだ。
ほんの少し前までは、毎日のようにリビングで一緒に勉強していたのに。
家での勉強が終わってからは、わたしは学校と塾の往復に戻った。
遥くんも同じ。
お互い、追われるように目の前のことをこなす日々だ。
でも、今日は久しぶりに時間が重なって、塾からふたりで歩いて帰っていた。
そんな時だった。



