「……うん。ありがとう。ちょっと疲れただけ」

「そりゃ疲れるよ、志望理由書とか面接とかやりながら、一般の対策もしてるんでしょ? 根詰めすぎないようにね」


わたしは、小さくうなずいて、視線を机の上に戻す。

消しゴムのカスが散らばったノートの上に、赤で何度も書き直した「国語が好き」という文字。


それを見ているだけで、胸の奥が少しだけあたたかくなった。


先生になりたい。

わたしが思い描く未来が、ここにある。


でも、目の前にあるハードルは、想像していたよりずっと高い。


夕暮れの空は、やけに遠く感じた。






ある日、学校帰りに図書室で参考資料を探していたとき、たまたま遥くんと会った。

彼は分厚い赤本を抱えていて、わたしを見つけると少しだけ目を細めた。


「久しぶりだな。最近、全然顔見てなかった」

「うん……わたしも、遥くんの顔、ちょっと忘れそうだった」