九月も半ばを過ぎたころ。
風の匂いが少しだけ変わった気がした。
夕方、塾の帰り道にすれ違う人たちの服装も、どこか秋を意識しているように見える。
わたしの足取りは少し重くて、カバンの中には推薦入試用の書類がぎゅうぎゅうに詰まっていた。
志望理由書、面接で聞かれそうな質問と答え。
自分の長所短所、それからこれまでの活動報告――。
毎日、書いて、直して、また書いて。
赤ペンでぐちゃぐちゃにされて、さらに書いて。
そして同時に、学校や塾の授業、参考書にマーカーを引いては問題を解く。
推薦で落ちたときのことを考えれば、一般入試の勉強を怠るわけにもいかない。
推薦も受けたい、でも受からないかもしれない。
だから、勉強も怠けたくない。
そんなふうに、どこにも逃げ道のない道をひとりで歩いているような感覚に、ときどき押し潰されそうになる。
「ひより、大丈夫?」
リビングで、隣の席にいた美帆ちゃんがそっと声をかけてくれた。



