君の隣が、いちばん遠い



「この時は、まだ空欄だったよな」

「はい……」

「だけど、空欄から始めるのも、立派なスタートだ。自分と向き合うって、簡単じゃないからさ」


言葉が胸にしみた。

久遠先生の前だと、わたしはいつも少しだけ自信が持てる。


「大丈夫。佐倉なら、ちゃんと道を見つけていけるよ」


その言葉に、小さく「ありがとうございます」と返した。




家に帰ると、美帆ちゃんがソファでおやつを食べながら、テレビを見ていた。


「おかえりー。……なんかさ、ひより最近ちょっとだけ“大人っぽく”なった?」

「え、なにそれ急に」

「うん。なんとなく。お姉ちゃんっぽいっていうか」

「……それは、勉強ばっかりしてて地味になったって意味じゃなくて?」

「ちがうってばー。ちゃんと芯がある感じ? 進路とか、決め始めたからかな」

「そっか……ありがと。そう言ってもらえると、ちょっとだけうれしいかも」


照れながらも、心の中がほんの少しあったかくなった。

家族と過ごす時間も、わたしの一部なのだと改めて思う。