もちろん、あからさまに冷たい態度をとるわけじゃない。

だけど、どこか迷っているような、思いを抱えたままのような空気をまとう人だった。


それでも、何日か通ううちに、わたしとの接点も増えていった。

勉強中、そっと紅茶を置いてくれたり、お昼に一緒に食卓を囲んだりと。


ある日、遥くんが席を外しているとき、お母さんとわたしはリビングにふたりきりになった。


「……ひよりさん」


初めて、名前を呼ばれた。

わたしは思わず背筋を伸ばして、お母さんのほうを見た。


「はい……?」

「いつも、うちの遥と勉強してくれてありがとう。……でも、気を使わせてしまってるわよね」

「そんなこと、ないです。こちらこそ、お邪魔してばかりで……」

「あの子、昔から頑固でね。何を言っても、聞かないところがあるの」


お母さんの声は、どこか寂しげだった。