6月の終わり、雨の匂いがまだ残る朝のこと。

わたしは、教室の窓際で静かに文庫本をめくっていた。


黒板の上には「体育祭準備スタート」の文字。

それだけで教室は早くもざわついている。

クラスの中心にいる生徒たちが、係をどうするか、どの競技が人気かなど、騒がしく話し合っている。


その声に混ざることはないけれど、耳だけでクラスの動きを把握していた。


見えないふりをして、ちゃんと見ている。

話さないけれど、聞こえていた。


そういうふうに日々を過ごすことには、もう慣れていた。


体育祭か……。


思わず、ページの上に目を落としたまま小さく息をついた。


騒がしい行事は苦手だ。

声が大きい人、集団行動、誰かとペアを組む空気が。


「誰と組む?」「誰が足速い?」

そんな話題に、自分が混ざることはまずなかった。


目立たないように、できることだけを、邪魔にならないように。

そうして、できれば空気のように過ぎていきたい。


そう──思っていたのに。