その返事が、震えていなかったか、少し不安だけど。
家を出て、いつものように遥くんと駅までの道を並んで歩いていたとき、彼がぽつりと笑った。
「父さん、そう言ったの、たぶん初めてだよ」
「……うそ」
「ほんと」
わたしは驚いて彼の横顔を見た。
いつもと変わらないようで、どこかほっとしたような、少しだけ照れたような。
その表情を見て、胸の奥がぎゅっとなった。
――この時間を、大事にしたい。
そう思った。
その日の夜、ベランダで花火を見ることになった。
家の前の広場で花火大会が開かれている。
わたしたちはお母さんに許可をもらって、二階のベランダにシートを敷いて腰を下ろした。
「ちゃんと勉強もしたし、少しくらいサボってもバチは当たらないよな」
遥くんがそう言って、わたしは笑って頷いた。
夜風は少し生ぬるくて、でも肌を撫でる風が気持ちよかった。



