夏休みに入ってから、遥くんの家に通う日々が始まった。
最初は、ほんの数日だけのつもりだった。
期末試験も終わり、成績表を受け取って、ひと息ついたところで夏期講習が本格的に始まった。
でも、せっかくお互い目標に向かって頑張っているのだから、一緒に勉強したいねって。
わたしがぽつりとこぼしたときに、遥くんが「うちに来る?」と、あっさり提案してくれたのだ。
もちろん、すぐに「行く」とは言えなかった。
これからもお家に邪魔するなんて、しかも毎日なんて、そんなに図々しいこと……。
だけど、遥くんはきっと、それを見越してあえてさらっと言ってくれたんだと思う。
何日か迷って、それでも一緒に頑張りたくて、わたしはカバンに問題集を詰め込んだ。
最初の日。
靴を脱いでリビングの戸を開けた瞬間、ひんやりとした空気と、きちんと整えられた部屋の匂いがした。
少し硬い雰囲気の中で、遥くんのお父さんが新聞を広げながら、視線だけをわたしに向けてきたのを、今でもよく覚えている。



