ちょっと笑ってごまかすような白石くんに、少しだけホッとする。
意味深な言葉を投げることはあっても、決して踏み込んでこない彼。
きっと、何もかも分かっていて、それでも関係を壊したくないと思ってくれているのだろう。
「でも……先生か。佐倉には、なんか、似合うな」
その言葉だけが、窓から流れ込む夜風にまぎれて残った。
帰宅して、自分の部屋でカバンを下ろすと、なんとなくスマホを開く。
ホーム画面には、一ノ瀬くんとのLINEが並んでいる。
『今日、塾で志望校の話したんだ。教育学部って書いたよ』
すぐに既読がついて、返信が届く。
『そっか。書けたんだね、よかった。おつかれさま』
スマホの画面がじんわりとにじんだ。
いろんな不安や迷いがあるけれど。
それでも、こうして言葉をかけてくれる人がいる。
そのことが、どれだけ心強いか、改めて実感する。
志望校はまだ“スタート地点”にすぎない。
これからたくさんの壁にぶつかるだろう。
でも、わたしは今日、ようやく「わたしの目指したい場所」をひとつ書けた。
ここからまた、がんばっていこう――そう静かに誓いながら、わたしはノートを開いた。



