「ひより」
帰り支度をしていると、隣の席から遥くんの声。
彼はまだ提出していなかった希望調査票を片手に、ちらりとそれを見せてきた。
「俺も、ようやく書いた。建築系の大学、第一志望にしたよ」
「……うん、聞いてたよ」
嬉しいのに、どこか胸がきゅっとする感覚。
彼がどんどん“先に進んでいる”ような気がして、少しだけ距離を感じることがあった。
でも、それをわたしが追いかける勇気に変えられたのは、きっと彼のおかげだった。
「頑張らないとね、わたしたち」
そう言うと、遥くんは笑ってうなずいた。
「うん。でも、無理はしないでね。追い詰めるんじゃなくて、一緒に登ってく感じでさ」
「……うん」
彼の言葉は、いつだって肩の力を抜いてくれる。



