君の隣が、いちばん遠い



「……書けた」


呟いた声は、自分でも驚くほど静かだった。

けれど、胸の奥がじんわりあたたかくなるのを感じた。


春休みに、久遠先生に相談した。

そして遥くんに「先生になりたいかもしれない」って話して、ようやく出せたひとつの答え。


まだ不安はある。

でも、ちゃんと“進みたい道”として自分で選んだことだった。


回収の時間になって、久遠先生が一枚一枚受け取りながら、生徒たちに軽く声をかけていく。


「佐倉、お、書けたか。教育学部か……いいじゃないか」


笑ってくれた先生の声に、また胸が少しあたたかくなる。


「……がんばろうな」


その一言が、とても重みのあるものに思えた。


いつも通りの教室、いつも通りの友達の笑い声。

だけど、どこかで少しずつ、何かが変わっていくのを感じる。


きっとこの一年で、たくさんのことが変わっていくのだろう。