君の隣が、いちばん遠い



横に座る遥くんが、ゆっくりと顔をこちらに向ける。

その視線を感じながらも、わたしは視線を前に向けたまま、ぽつりぽつりと続けた。


「春休み中に久遠先生と話したときにね。勉強のこととか、進路のこととか、丁寧に話を聞いてくれて……すごくうれしかった。先生って、ただ授業を教える人じゃなくて、生徒のことをちゃんと見てくれる存在なんだなって」

「うん」

「わたし、国語の授業が昔から好きだったの。物語とか、人の気持ちを読むのとか。うまく言えないけど……誰かの力になれる仕事って、すてきだなって思って。まだ先生になるってはっきり決めたわけじゃないけどね」


言葉をつなぎながら、胸の奥が少しだけ軽くなるのを感じた。

初めて、ちゃんと自分の気持ちを口にできた気がした。


「……いいと思うよ」


小さな沈黙のあと、遥くんが静かに口を開いた。


「ひよりが先生になったら、きっと生徒想いのいい先生になると思う。……っていうか、すでにちょっと、先生っぽいし」

「え、どういう意味?」

「なんとなく。落ち着いてて、人の話よく聞いてくれるし。……それに、俺も昔、ひよりの言葉に救われたこと、何度もあるから」


そう言って、彼がやわらかく笑った。

あたたかい光が胸に落ちて、ほんの少しだけ泣きそうになった。