彼はごく自然にスマホを取り出して、QRコードを表示する。
そして、照れ隠しのように笑いながら、言った。
「べつに、深い意味はないけどさ。連絡ついた方が、便利じゃん」
ほんの一瞬だけ戸惑った。
でも、自分のスマホを鞄から取り出して、QRコードを開いた。
ふたつのスマホが、静かに近づく。
画面に表示される「友だち追加」の文字。
わずかに震える指で、わたしは“追加”をタップした。
「……変な感じだね」
「なにが?」
「今まで……話してなかったわけじゃないけど、こうやってちゃんと“連絡できる”って思うと、ちょっとだけ……」
「俺は、普通に嬉しいけど」
一ノ瀬くんがそう言って笑ったとき、わたしも自然と微笑んでいた。
「今、笑った」
一ノ瀬くんが驚いたように言う。
「笑うんだな、佐倉さん」
「……わたしだって、笑うよ」
その言葉に、ふたりともふっと笑ってしまった。
静かなカフェの中で、ふたりの笑い声だけが、やわらかく空気を揺らしていた。



