春の夕方は、昼間よりも少しだけ色を落としたように、静かだった。
風に揺れる草の匂い、遠くで鳴る自転車のブレーキ音。
それからわたしの胸の奥で波打っている、ちいさな鼓動。
全部が、今日という時間を、どこか特別なものに感じさせていた。
「ごめん、待った?」
河原沿いの歩道に立っていた遥くんが、笑ってわたしに手を振る。
「ううん、わたしが早かっただけ」
そう答えながら、自然と彼の横に立つ。
ここで会うのはいつぶりだろう。
去年の冬も、春も、たくさんこの場所で一緒に過ごした気がする。
けれど、こうして改まって「会おう」ってなったのは、久しぶりだった。
春休みの終盤。
もうすぐ三年生が始まる。
制服の袖に触れた風が冷たくて、わたしは無意識に指先を丸めた。



