「それは……ちょっと照れるな。でも、嬉しいよ」
「……まだ決めきれたわけじゃないですけど、そう思ったことがあるのは、ほんとです」
「十分だよ。まずはそこから考えてみようか。たとえば、教育学部とか、文学部とか。国語の先生になる道もある」
「……教育学部……」
その言葉が、少しだけ現実味を帯びて、心にふんわりと沈んだ。
久遠先生と話していると、不思議と焦りがやわらいでいく気がした。
「また、迷ったら来ていいですか」
「いつでもどうぞ。職員室、扉は開いてるよ」
わたしは深くうなずいた。
少しだけ、自分の足で立てる気がした。
その夜、わたしは引き出しの奥から、再び、一年生の頃の国語ノートを取り出した。
読み返すたびに、そのときの感情がふわっとよみがえってくる。
わたしはこうして、物語を読んで心を動かしてきた。
だから、このときから、そんな風に誰かの心を動かせる側に立てたらいいなって、思っていたのかもしれない。
教師になるという道。
まだ遠くにある夢のようだけど、少しずつ輪郭が見えはじめた気がする。



