君の隣が、いちばん遠い



「佐倉は真面目で、物事を丁寧に考えるタイプだよな。だから、簡単に決められないのは、悪いことじゃないと思う」


わたしは驚いた。

久遠先生は、そんな風にわたしのことを見てくれていたんだ。


「自分がどうしたいか、まだよくわからなくてもいい。ただね、“自分ががんばれた時間”とか“やってて好きだったこと”を思い出してみて。意外と、そういうところにヒントがあるもんだよ」


“がんばれた時間”“好きだったこと”。

その言葉が、胸の奥にふわりと浮かび上がってきた。


国語の授業。


わたしは、現代文も古文も、読むことがすごく好きだった。

特に、登場人物の気持ちを想像して考えることが、自然と楽しいと感じられた。


そして、久遠先生の授業はいつも、静かだけど熱があって、わたしはその雰囲気が好きだった。


「先生みたいになりたいって……思ったこと、あります」


ふいに口をついて出た言葉に、わたし自身が驚いた。

でも、嘘じゃない。


それは、きっとどこかでずっと思っていたことだった。

先生は少しだけ目を見開いて、それからやさしくうなずいた。