家に帰って、書棚のすみで見つけたのは、一年生のときの国語のノートだった。

授業で、現代文の短編小説を読んだあとに書いた感想が、そこにはあった。


《登場人物の気持ちが、わたしと似ている気がして、読んでいて苦しくなった。だけど最後に救われた気持ちになれたから、この物語が好きになった》


読み返しながら、あのときの自分を思い出していた。


言葉を読むこと。考えること。誰かの気持ちに触れること。

それを伝える授業の時間が、わたしは好きだった。


もしかしたら、それが“好き”なのかもしれない。



夜、スマホの通知に気づくと、遥くんからのメッセージが届いていた。


『明日、久しぶりに会わない?河原のベンチ、久しぶりに行きたくなった。』


そのメッセージを読みながら、わたしの胸の中で、ほんの少しだけ明日が楽しみになるような気がした。


未来はまだ白紙だけど――わたしの“好き”は、たしかにここにある。