「進路調査、書けた?」

「……ううん。まだ真っ白。名前しか書いてない」


正直に言うと、遥くんは優しく苦笑した。


「焦らなくていいと思うよ。俺だって、最初から決まってたわけじゃないし」

「でも、建築のこと……進路、決めてるんでしょ?志望校だって」

「まあね。親とはまだ揉めてるけど。久遠先生と塾の先生には話してる」


塾、進路、大学。


彼の中で、未来が少しずつ形になっていっているのが伝わる。

もちろん、それが悪いことじゃない。むしろ、すごく素敵なこと。

でもその分、彼と自分のあいだに距離ができたような気がしてしまう。


「……やっぱりすごいね。遥くんは」

「いや、別にすごくなんてないって」


彼はそう言って笑ったけれど、わたしの胸の奥に、ぽつんと小さな影が落ちた。


もう三年生になるのに、何も決まっていない。

わたしも、何かを決めなきゃいけない。


けれど、その“何か”が見つからないまま、春休みに入ってしまった。