ノートのページを開いて、ペンを走らせる。
すると、彼がふと、わたしの問題をのぞき込んできた。
「そこ、多分“x=2”じゃない? 解の公式、符号逆だと思う」
「あっ……ほんとだ」
指先が自然に近づいて、ノートを指し示す彼の手と、わたしの手がわずかに触れそうになった。
——変な感じ。
でも、嫌じゃない。
むしろ、心が少しだけ温かくなるのを感じてしまう。
「……あ」
わたしは鞄の中をがさごそと探った。
「ノート……家に忘れてきちゃったかも」
一ノ瀬くんが顔を上げた。
「え、マジで? 今日の数学、写すって言ってたよね」
「うん、ごめん。あの……」
「いーよ、俺の見せる。後で写真撮って送ってやるよ」
一瞬、間があった。
わたしは、そこで息を止めたように、彼の顔を見た。
「……送るって?」
「LINEで。っていうか、連絡先知らないんだっけ、俺ら」



