教室の窓から差し込む春の陽射しは、ほんのりあたたかくて、眠気を誘うほどやさしかった。
二年生最後の終業式が終わった午後。
わたしは配られた一枚のプリントを、机の上でそっと指先でなぞっていた。
《進路希望調査票》
その文字が、ずっと視界の端でじわじわと滲んでいるようだった。
名前欄だけが埋められたその用紙は、真ん中から下がまるごと空白で、妙に存在感を放っていた。
前の席に座っている吉岡くんが、もうさっさと書き終えて鞄に仕舞ったのを見て、わたしは少しだけ背筋をのばした。
「はー、ついに三年かぁ……受験、逃げられないね」
隣の席から紗英ちゃんのぼやきが聞こえてきて、わたしはふっと笑った。
「紗英ちゃんはもう志望校、決まってるの?」
「一応ね。私立の文系だけど、行けそうなとこにしようかなって。でもさー、まだ志望理由とか書ける気しない」
そう言いながらも、彼女の手元にはちゃんと埋まった進路希望票があった。
書ける気しないって言いつつ、もう動いてる。やっぱり、すごいなって思う。



